トンツカタン森本バナシ

プロダクション人力舎所属、トンツカタン森本のブログ

タクシー・ビオフェルミン・ミッションバナシ

「タクシーでビオフェルミン買いに行く」

先日、金沢へ営業(ライブ)に行かせていただいたときの話。2回公演の1公演目が終わったあと、一緒だった三四郎小宮さんが缶コーヒー片手に近づいてきて「ねぇ、今からタクシーでビオフェルミン買いに行くから一緒に来てよ」と言われた。小宮さんの言葉を借りると『バチボコ奇妙な誘い』である。どうやら会場から薬局までは歩いて行くとそこそこ遠いらしいのでタクシーを使うそうだ。次の公演まで特にやることもないのでついていくことにした。
2公演目が始まるまで約20分。三四郎さんの出番は後のほうなので余裕だが、僕らトンツカタンの出番は2番目なので開演時間には戻ってきたい。一応その旨を小宮さんに伝えると「大丈夫大丈夫。ここから○○薬局まで5、6分って言ってたから」とのこと。一安心し、会場裏口の張り紙に書かれてあったタクシー会社の番号に電話してタクシー呼んだ。

「おーい!みんなー!おーい!」

会場の裏にある駐車場で待つこと5分。「おいおい、けっこうギリギリだけど大丈夫か…?小宮さんの言葉を信頼していいのか…?」とうっすら焦りを感じ始めたとき、タクシーが到着した。
「○○薬局までお願いします」
「かしこまりました」
僕らを乗せたタクシーが会場の入り口に面した道路に出ると、大勢のお客さんが入場している最中で人だかりができていた。その光景を見た小宮さんがおもむろに窓を開け
「おーい!みんなー!おーい!」
と手を振りながら話しかけはじめた。しかし誰一人としてこっちを向こうとしない。それもそのはず。まさか今から見る公演の出演者がタクシーで会場から遠ざかっていくとは誰も思わない。みんな極力声の方向から目を背けようとしていた。きっと『限りなく三四郎小宮似の不審者が乗ったタクシー』だと思われていたのだろう。小宮さんはしゅんとしながら窓を閉じた。

「生意気キャラでブレイク中の…」

そんな小宮さんの行動をガン無視して「すごい人ですね。これはなにをやってるんですか?」と運転手さんが話しかけてきた。
「今からお笑いライブをやるんです。三四郎さんとかが出るんですよ」
「…あ、そうですかー」
あまり反応がよくない。すると小宮さんが
「三四郎知りませんか?」
「ごめんなさい、ちょっとテレビあまり見れてなくて…」
だとしたらしょうがない。もちろんそういう人だっている。
「いや、あの最近生意気キャラでブレイク中の…」
引き下がれよ。よく恥ずかしげもなく言えたな。
「あ、もしかしたら息子が好きって言ってたかもしれません」
完全に気を使わせてしまっている。さぞかし申し訳なさそうにしているだろうと小宮さんを見たら満足げな表情を浮かべていた。なんでだよ。

謎の罪悪感

そんな話をしながら5、6分走っていたのだが、いっこうに薬局に着く気配がない。
「すいません、○○薬局まであとどのくらいでしょうか?」
「んー、あと7分くらいですかね」
話が全然違う。ゲームオーバーである。このままでは確実に開演に間に合わない。すると小宮さんが口を開いた
「薬局はもういいので、このまま戻ってください!」
『タクシーでビオフェルミンを買いに行く』という予定が、世にも珍しい『タクシーを利用したドライブ』になった瞬間だった。僕の出番が早かったせいで小宮さんはビオフェルミンをあきらめなくてはいけなくなった。僕は絶対感じなくていいはずの謎の罪悪感に包まれた。

映画『TAXi』状態

小宮さんの言葉を受けた運転手さんがUターンをしながら
「○○薬局って、あっちのほうだったんですね!」
と言った。どうやら○○薬局はふたつあるらしく、運転手さんは気を利かせてちょっと遠いけど大きい方の○○薬局に向かってくれていたそうだ。小さい方なら会場の近くにあるそうで、帰り道に寄れるとのこと。まさかの大逆転である。しかし時間に追われているのには変わりなく、薬局に寄りたいけど間に合うか不安だということを伝えると
「…わかりました」
と、急に運転手さんの目つきが変わった(気がした)。そこから先ほどよりタクシーのスピードが上がり、行きとはまったく違う、狭い路地という路地を激走した。
「お、おぉーーーー!!!」
このアツい展開に思わず声が出てしまう僕たち。映画『TAXi』のスケール小さい版みたいなことになっていた。

「早く行け!!!!!!!!!」

そうしてあっという間に○○薬局の駐車場にドリフト気味で止まった(気がした)。
「着きました!!!」
運転手さんも完全にアドレナリンが出ているトーンになっていた。「あ、もしかしたら息子が…」の時とは大違いだ。あとはビオフェルミンを買うだけ。しかし小宮さんがなかなか動こうとしない。すると僕に向かって
「え、これ急いだ方がいい?ねぇ?急いだ方がいいかな?急いだ方がいいの?」
「早く行け!!!!!!!!!」
先輩なのを承知で言うが、あいつここに来て時間を稼いで僕を遅刻させようとしやがった。どうにか店内へと急がせて、僕と運転手さんは車内で待つことにした。
「これもう捨てちゃっていいですかね?」
運転手さんが小宮さんが車内に置いていった缶コーヒーの空き缶を指さして言った。「捨てちゃっていいと思います」と答えると
「行ってきます!!!」
と、猛ダッシュで薬局の外に置いてあるゴミ箱に捨ててきてくれた。そこは急がなくていいのに。

「…どうも」

そうこうしているうちに小宮さんがビオフェルミンを持って薬局から出てきた。スムーズに乗り込めるよう、運転手さんが薬局の目の前まで車をつけてくれた。しかし、なかなか乗り込まない。すると遠くを見るような感じで
「おーい!どこー!?どこ行っちゃったのー!?」
「ここ!!!!!!早く乗れ!!!!!!!」
またしても残り少ない時間を無駄にしやがった。しかしこうしてなんとか当初の予定を達成できた。会場までの道のりももちろん路地を駆使して走り抜けてくれた。そのおかげでなんとか開演時間に間に合うことができた。そしてお会計の際、運転手さんが少し荒い運転になったことをお詫びするとともに
「もう、うちのタクシー使わないほうがいいですね」
と、笑い混じりに言った。台本があるのかと思うほどシビれるセリフだった。すると小宮さんがお財布からお札を取り出し
「ありがとうございました。お釣りはいりませんので…」
「…どうも」
なんで二人とも役者モードに入ってんだよ。しかし、危機を乗り越えミッションを達成し、もう会うことはないであろう二人。一期一会の物語。そんなことを思うと会場に戻っていく小宮さんの背中が主人公のそれに見えてきた。

 

手元のビオフェルミンを見て「違う」と我に返った。