トンツカタン森本バナシ

プロダクション人力舎所属、トンツカタン森本のブログ

6000円のステーキ食べ放題バナシ

「2人の分おごるんで行きましょう」

先日、パーパー山田、卯月の酒井と一緒に6000円のA5ランクステーキ食べ放題に行った。若手芸人がランチに6000円も払うなんて死活問題だが、7月に行われた『お笑いハーベスト大賞2017』で優勝した賞金が入って金銭感覚がバブリーになったパーパー山田が

「2人の分おごるんで行きましょう」

というとんでもない提案してきたので僕と酒井も口をそろえて

「ま、マジすか!?」

と、ついていくことにした。

「僕、なにもわからないです…」

銀座で待ち合わせし、お店に向かいながらみんなで今日の意気込みを語った。僕は『いきなり!ステーキ』では300グラムとライスの大盛りを食べるので、ちょっと無理して400グラムを食べようという意思を告げると酒井が

「400グラム…つまり2枚食べるということですね」

と言うので、そういうお店では1枚200グラム均一で提供されるのかと聞いたら

「すいません、適当に言っちゃいました。僕、なにもわからないです…」

こいつ、すでに銀座という土地に飲み込まれている。これから体験する非日常に脳みそが追いついていない。そして山田に今日どのくらい食べる予定か聞くと

「わたし全然食べられないんで200グラムくらいですー」

なんで来たんだよ。その胃袋のキャパで食べ放題提案すんな。不安を抱えながら、我々弱小パーティーはお店へと足を踏み入れた。

「ステキですね〜」

いざ店内に入るといわゆる高級鉄板料理屋の店構えで、お客さんは全員フォーマルな格好をしていた。Tシャツと短パンで来ていた酒井は完全に萎縮していて、そんな彼を見て僕は「念のため七分袖のTシャツを着てきてよかった」と心から安堵した。

席に案内されると、鉄板越しにベテランのコックさんが慣れた手つきで前菜を作り始めた。聞くところによると30年近く料理人をされているそうなのだが、そんな長いコック人生でもこんな『収入源が謎の3人組』に料理を振る舞うのは初めてだろう。ステーキに関するお話を聞きながら酒井が「ステキですね〜」と言っていたので、少なくとも芸人という線は消えたはずだ。

「ありがとう…」

貴重なお話を伺いながら手際よく前菜が目の前のお皿に盛りつけられた。料理名はわからないが、とにかくおいしい。僕なら『野菜とお肉のおいしいやつ』と命名するだろう。

そして念願のステーキが焼かれはじめた。部位によって量が全然違うらしいのだが、最初に振る舞われたのは1枚130グラムほどのもの。酒井の1枚200グラム発言が本当にでまかせだったということがわかった。

絶妙な焼き加減で丁寧に切り分けられたお肉がお皿にやってきた。一切れ口に運ぶと、普段コスパを最優先している舌が「ありがとう…」と感謝しているのを感じた。

「もうやめてください〜〜!」

当たり前のように朝食を抜いてきているので、順調に食べ進める3人。システムとしては、食べ終わりそうになる頃をコックさんが見極めて新たな部位のステーキを焼き始めてくれるというもので、もしお腹いっぱいになったらその旨を伝えなければならない。

まずは酒井が2枚目に突入し、すこし遅れて僕が続いた。一方で山田は1枚目の終盤でペースが落ち始めた。嫌な予感を漂わせながら完食し、2枚目のステーキがお皿に乗せられた瞬間

「もうやめてください〜〜!」

嫌がらせされてたみたいな感じで言うな。宣言していた200グラムも食べないままギブアップしてしまった。なんなんだこいつは。

体の異変

そんな山田をよそ目に食べ続ける僕と酒井。すると、2枚目の終盤で僕は自分の体の異変に気づいた

「胃袋が…遠慮している…!?」

普段食べているお肉とのあまりのギャップに僕の胃が「悪いことは言わない。これくらいにしときましょう」と語りかけてくる。あんなにお腹を空かせていたはずなのに。そんなことを知る由もないコックさんが3枚目のお肉を焼きそうになったのを見て

「もうやめてください〜〜!」

と、山田を完コピする形でギブアップした。結局3枚目に突入したのは酒井のみだったのだが、同じく3枚目の終盤で僕と同じような顔をし始め、4枚目が焼かれる寸前で

「もうやめてください〜〜!」

が案の定炸裂した。僕たちなんで来ちゃったんだろう

「へへっ、ですよね〜」

あまりにも不甲斐ない僕たちのギブアップを見たウェイターさんが

「え!!!???もう終わりですか!!!???」
と、店の雰囲気にそぐわない声量で驚いていた。するとコックさんが

「上品なお客さんなんですよ」

「お腹いっぱいで嫌な思い出になるよりよっぽどいい」

「食べすぎてトイレにこもってしまうお客さんもいますから」

など、A5ランクのフォローを連発してくれた。それに対し僕らは「へへっ、ですよね〜」と、ランク外の返ししかできなかった。

先輩の威厳

そしてお会計の時、全額払おうとする山田を見てふと我に返った。

「いくら賞金が入ったとはいえ、年下の後輩に全額払わせていいのか…?」

急な罪悪感に苛まれた僕は、こんなこともあろうかと事前に下ろしておいた1万円を山田に渡した。全額は無理だが、半額以上は払うのが先輩として最低限の役割だ。そう思いながらふと伝票を見ると、消費税や飲み物代などが含まれて結局半額も払えてなかった。結局僕と酒井はしっかりと山田にごちそうしてもらった。

 

店を出ると、満腹なはずなのに不思議と体が軽くなった気がした。

 


あぁ、先輩としての威厳が400グラムなくなったんだ。