シンタロウ100%をやったバナシ
地獄オファー
7月某日、磁石の佐々木さんから電話がかかってきた。
「今度俺らのユニットライブに出てほしいんだけど」
磁石佐々木さん、ダブルブッキング川元さん、マツモトクラブさんが定期的に開催しているユニットライブへの出演依頼だった。このライブは3人がネタを披露するライブだということは知っていたので、その中のひとつに参加したりするのかなと思いながら聞いていると
「森本にはオープニングでアキラ100%の格好をして英語で開会宣言をしてほしい」
正気とは思えないオファーだった。当然ボケだと思った僕は電話越しで「なんでだよ!!」とそこそこの声量で叫んだのだが、どうやらヤツは本気らしい。そこから具体的には覚えてないのだが、漫才師特有の話術に言いくるめられてオファーを快諾してしまった。
アラウンド・ザ・ワールド
当日劇場に向かうとお盆と蝶ネクタイが用意されていた。お盆の内側にはライブ名である『120』と書かれていた。どうやら股間の前でお盆をひっくり返すアキラさんの定番技『アラウンド・ザ・ワールド』をやらせたいらしい。
「まぁひっくり返すくらいならできるか」
そう思いながら着衣の状態で鏡に向かって試してみると
「あれ?完全に見えちゃう…」
お客さんの悲鳴とともにライブが中止になるビジョンが見えた。この技、アキラさんが簡単に見せているだけでめちゃくちゃテクニックが必要だった。アキラさんとは何度もお会いしているが、なんで一度も
「アラウンド・ザ・ワールドのコツってなんですか?」
と聞かなかったのだろうという『しなくてもいい後悔』をした。
「バスケ部のマネージャーやってたんで!」
その後何度か試行錯誤を繰り返しているうちに、両手を駆使してお盆をひっくり返すスピードを上げる方法を見つけた。
「よし!これなら見えない!」
と、『アキラさんが感じたであろう喜び』を追体験した。
そうしてあっという間に本番直前を迎え、僕は全裸でお盆片手にこそこそと舞台袖に向かった。すると開演前の準備をしている女性スタッフさんと目があった。僕は罪悪感と後ろめたさから
「すいません、こんな格好で…」
と謝ると、そのスタッフさんは苦笑いを浮かべながら
「わたし、バスケ部のマネージャーやってたので大丈夫です!」
どういう理論だよ。どのバスケ部にも股間をお盆で隠しながら全裸で申し訳なさそうにうろついてるやついないだろ。
本番
いざ開演し、照明が当てられた舞台に僕は横歩きで出ていった。特にしゃべることを固めていなかったのだが、開口一番自然に出てきた言葉が
「ファッキン佐々木…」
だった。初めて心の底からファッキンが炸裂した。その後も英語でぶつぶつと文句を垂らし、最後に『アラウンド・ザ・ワールド』をなんとか成功させて開会宣言を終えた。全裸であの技をやるのはとてつもない緊張だった。常にあの状態でネタをやるアキラさんへのリスペクトがさらに増した。
つままれたパンツ
無事に開会宣言が終わり、舞台袖の床に置いてあるパンツを取りに戻ると、先ほどとは別の女性スタッフさんがちょうど僕のパンツの目の前に立っていた。モジモジしている僕に気づいたスタッフさんが
「お疲れさまです!どうされました?」
「あの、そちらにパンツが置いてありまして…」
「あ、取りますよ!」
と言ってパンツを親指と人差し指の先端でつまみながら渡してくれた。指が触れる面積を極限まで少なくしていた。『スタッフとしてのプロ意識』と『女性としての拒否反応』のせめぎ合いを見た気がした。
100%の確信
その後は通常通り、3人のユニットによるネタライブが行われた。3人漫才、それぞれのピンネタ、3人コントという、思いの外ストイックなライブ構成を舞台袖で見ながら僕は確信した。
「これ開会宣言いらなかっただろ」
火を見るよりアキラかだった。