ブルゾンしんたろうをやったバナシ
『K-PROネタカーニバル』
今年の5月、僕らは『K-PROネタカーニバル』というライブに出させていただいた。このライブは出演者が別の芸人さんのネタをカバーするというもので、年に一度のお祭りライブである。
今回が初めての出演だった僕たちは、以前出演したことのある芸人さんにどのようにしてカバーする芸人さんが決まるのか聞いてみたところ、
「スタッフさんから提案されたり、自分から提案したりして話し合って決めるよ」
とのこと。僕は自分たちがカバーしたいと思う芸人さんをいくつか考えておくことにした。
「決定です」
同じK-PRO主催の別のライブに出させてもらったとき、楽屋で待機していたらスタッフさんが僕の方に近づいてきて
「カバーネタの件なんですけど、トンツカタンさんはブルゾンちえみwithBさんでお願いします」
「え、決定ですか?」
「はい。決定です」
決まっていた。もう変更の余地がないということがハッキリとわかるくらいまっすぐな目をしていた。ただ、やるとしても重要になってくるのが配役だ。誰がブルゾンちえみをやるかによってネタのテイストが変わっ
「森本さんがブルゾンちえみさんでお願いします」
決まっていた。こうして僕らのカバーネタ打ち合わせは10秒で終わった。その後、送られてきた台本とYouTubeでネタを見ながら家で黙々と振り向きざまの「35億」と「あと5000万人」を練習し続けた。ブルゾンちえみもこのプロセスを踏んでいると思うと感慨深かった。
当日
事前に練習する時間がなかったため、当日早めに会場へ集まった。ネタ合わせでいつもやっているように、まずはセリフを確認するため一通り読み合わせをすると
「あ、そういえば僕しかセリフないんだった…」
ただ相方に『自分なりのブルゾンちえみを聞かせる時間』を設けてしまった。読み合わせを早々に切り上げ、入念に動きの確認をした。
「試してみな」
本番が近づき、スタッフさんに用意してもらった衣装に着替え、顔にメイクを施して鏡の前で仕上がりを確認すると、ある違和感に気付いた。
「さすがに胸がなさすぎる…」
普段女装をしないのでそういったノウハウがなく、衣装とメイクをしてもまだ男っぽさが残っていた。なにか打開策はないかと、普段女装する役が多い相方の菅原に聞こうと思ったが、彼は『ナチュラルボーンバスト』でまかなっていたので参考にはならなかった。
するとそんな僕を見かねた同じ出演者のだーりんず小田さんがスタスタとこちらに歩いてきて
「タオルの両端で結び目を作るとちょうど胸の形ができる。試してみな」
と、『先輩オネエのアドバイス』みたいな発言をして去っていった。そしてそのアドバイスを受けて完成したのが
ただの『駆け出しオネエ』じゃねぇか。「二丁目で一花咲かせるわよ」じゃないんだよ。
ハプニング
本番はお祭りということもあり、お客さんが快く僕をブルゾンちえみとして受け入れてくれた。おかげで僕も完全にブルゾンちえみになりきれたので、本心から「新しいガム、食べたくない?」と言えた。
ネタはミスなく順調に進み、最後に両サイドで片膝立ちした相方のふとももの上に乗り、足を組みながら「…35億」とつぶやいて終わった。達成感に包まれながら客席を観ると、前列のお客さんが顔を伏せていた。あとから知ったのだが、どうやら足を組んだときずっとパンツが見えていたらしい。たまたま赤いボクサーパンツを履いていたのだが、後日それを見ていたお客さんに
「あのとき赤いパンティ履いてましたよね?そこまで役作りするなんてすごいですね!」
するわけないだろ。どこまでカバーしようとしてんだよ。
とはいえ、お客さんに見たくもないパンツを見せつけてギャラをもらったのは事実。
とんだDirty Workだ。