壁手伝いバナシ
三福エンターテイメントという男
三福エンターテイメントというピン芸人をご存じだろうか。僕らが所属するプロダクション人力舎の先輩で、若手内では兄貴的存在として慕われている。現在は自作の壁を使ったネタをしているのだが、日々壁と向き合った結果、最近では先輩後輩問わずその日ライブに出演している芸人をネタに参加させて大爆笑を生み出す自他共に認めるエンターテイナーとなっている。初めは1人か2人だった参加者が、三福さんがどんどんとエスカレートして昨日のライブでついに『12人』になった時の話。
「よし、森本いるな」
昨日行われた『しもきた大旋風』というライブの楽屋に現れた三福さんは、僕を発見するやいなや
「よし、森本いるな」
とつぶやいた。僕は以前から何度もネタに参加させられているのですぐに「今日も参加させられるのか…」と観念した。一番タチ悪いのが三福さんは『全芸人が自分のネタに出たがっている』と勘違いしているところだ。僕がどんなに嫌な顔をしても「オーケー。そういう演技ね」と言って出番を増やしてくる。最近はこれが『強制イベント』だということを受け入れたので嫌がることはなくなった。
「客席で見てて」
その後僕の相方二人、同じく三福さんのネタ参加経験が豊富な卯月、そして楽屋で僕の近くにいたという『薄すぎる理由』でザ・ギース尾関さん、ウエストランド井口さんが巻き込まれ、舞台上で軽くネタ合わせをすることに。僕らと卯月は何回か経験があるので口頭で説明を受けて終わったが、やはり尾関さんと井口さんは初めての経験で不安が拭いきれないのか
「ちょっと何回か練習しよう」
「森本くん、今からやるから客席で見てて」
一度リハーサルを見させられたあと、「まぁいいんじゃないですかね」と言うと
「いや、もっと表情うまくできると思う」
「動きも合わせましょう」
「森本くん、もう一回やるから客席で見てて」
入念すぎるだろ。それぞれのコンビのネタより気合入れるな。あとなんで僕いつの間にか『壁の新人研修』任されてんだよ。
+4
その後三福さんがネタの流れを説明していると
「ん…待てよ?このままだと人が足りないな」
なんでだよ。すでに8人巻き込んでるのにまだ駒必要なのかよ。こうして運悪く近くにいたマカロンとナイチンゲールダンスが巻き込まれ、12人が参加することになった。
『ありがとうございました打ち上げ花火』
ネタの説明があらかた終わり、ようやく解放されると思ったら三福さんが
「実は今日新ネタの『ありがとうございました打ち上げ花火』を披露しようと思っている。ぜひ見てほしいからちょっと待っててくれ」
なんの承諾も得ないまま僕らは客席で人生初の『ありがとうございました打ち上げ花火待ち』をすることになった。
10分後
「え、これ来るよね?僕たちのこと忘れてないよね?」
不安に駆られながら待っていると、壁セットを持って三福さんが現れた。
「持ってきたぞーハッハッハ!」
まるで『2分も待たせてない』くらいのテンションで壁を組み立て、『ありがとうございました打ち上げ花火セット』が完成した。
そして客席に座る我々に三福さんが
「残念だけど、これは2人しか参加できないんだ」
と、『倍率高くて申し訳ない』というトーンで言ってきた。12人いるけど志願してきたやついないんだよ。
アゴ乗せ
こちらの『ありがとうございました打ち上げ花火』、どのようなネタなのかはぜひライブでご覧いただきたい。さわりだけ説明すると、三福さんを中心とした3人がゴム紐にアゴを乗っけるのだが
三福さんのところだけ『アゴ乗せ』が用意されていた。なんで自分だけ急所守ってんだよ。このアゴ乗せ事件にみんなで三福さんに文句を言ったら
「……よし、じゃあ本番よろしく!」
ガン無視しやがった。それ以降、アゴ乗せの話をするとどこかへ行ってしまうようになった。
あの人、そういう壁もすぐ作れるのかよ。
おまけ
マカロンとナイチンゲールダンスに熱血指導する三福エンターテイメントさん。