仙台営業バナシ
仙台営業
先日、『爆笑お笑いフェスin仙台』というイベントで仙台へ営業に行かせていただいた。テレビの人気者が集結するということもあり、2公演だったところが急きょ3公演に増えるほどの大盛況だった。僕らトンツカタンはありがたいことにこういった営業は月1くらいのペースで参加させていただいているのだが、今回初めてにゃんこスターとブルゾンちえみwithBと営業でご一緒させていただいた。
トントントン
初めて一緒になる2組のネタはぜひ見たいと思い、僕らの次の出番だったにゃんこスターを舞台袖のモニターで楽しく見ていると三四郎の小宮さんが隣にやってきて
「このあとふたりがこうして、そのあとああして、最後にこうなるから」
めちゃくちゃネタバレしてきた。僕の楽しみを奪っていくな。そのあとブルゾンちえみwithBのネタを見ていると、小宮さんが舞台袖に置いてあったマイクをなんの脈略もなく
トントントン
と叩いた。幸いカフが下がっていたので音が入ることはなかったが、もし上がっていたら会場中に『謎のトントン音』が響きわたるところだった。
「がんばれ〜」
小宮さんには僕が責任を持って厳重注意し、気を取り直してブルゾンちえみwithBのネタに戻ると「35億」のくだりに突入した。初めて生で見れると思ってワクワクしていると、ちょうど「35億」と言うタイミングで小宮さんが急いでカフを上げ、マイクに顔を近づけて
「がんばれ~」
とつぶやいた。なにをしているんだこいつは。なんとかBGMの音量と小宮さん持ち前の『声の届かなさ』で会場の人にはバレなかったが、こんなハイリスクノーリターンなことをする意味がわからない。もっと言うとブルゾンちえみwithBはがんばっている。僕とにゃんこスターのスーパー3助さんが小宮さんを責め立てていると
「もし聞こえたとしても対処できるよ!じゃあ僕らの時に森本が「がんばれ~」って言ってよ!絶対笑いに変えるから!」
どんな巻き込み方なんだよ。そんなの三四郎さんのネタの邪魔になるし、ファンの人に申し訳ないということを伝えると
「じゃあ音響として正式に頼みます!先輩のネタで音響頼まれたら断るの?断らないでしょ?ねぇ!」
なんでムキになってるんだよ。そうこうしているうちに三四郎さんの出番になってしまった。口頭で「がんばれー」のタイミングを『2箇所』伝えたあと、小宮さんは舞台上へと向かった。緊張と不安でいっぱいになった僕は3助さんに隣にいてもらうよう懇願した。
1箇所目
僕と3助さんが食い入るように三四郎さんのネタを見ていると、早速最初の『がんばれポイント』が近づいてきた。3助さんがタイミングを見計らって
「よし!森本くん、今だ!!」
「はい!」
急いでカフを上げ、マイクに向かって
「がんばれ~」
「…」
どうやら極限の緊張で『ほぼミュート』くらいの声量になってしまい、あまり聞こえなかったようだ。このままだとあの男になにを言われるかわからない。次はハキハキとマイクに声を通そう。僕は『謎の使命感』に包まれていた。
2箇所目
そうこうしてやってきた2箇所目のがんばれポイント。それはなんと漫才の『オチ台詞の直前』だった。そんなトリッキーなタイミングで大丈夫なのかと不安だったのだが、出番前の
「絶対笑いに変えるから!」
という言葉を信じてネタを見守った。そして漫才も終盤に入り、先ほどと同じ要領で3助さんが
「よし、今だ!!」
「はい!!」
慣れた手つきでカフを上げると、スーパー3助さんもマイクに顔を近づけ
「がんばれーーーー!!!!!」
とふたりで叫んだ。これは確実に会場に響きわたっただろう。達成感に満ちあふれた状態で舞台の方を見ると、静まりかえる客席、戸惑う相田さん、
「アッハッハッハ!!!」
腹を抱えて笑う小宮さん。「絶対に笑いに変える」ってそういうことじゃねーよ。
大反省会
その後舞台袖に戻ってきた小宮さんを僕らが糾弾すると
「あんな明確に言わないでよ!!聞こえるか聞こえないかくらいでいいんだよ!!」
「そんなの知らないですよ!!笑いに変えるって言ったじゃないですか!!」
「それはごめんなさい…」
そこは自覚あるのかよ。こうして『泥の反省会』が終わりそうになったところで小宮さんが
「ん?今思ったけど…なんで3助さんも『がんばれー』って言ったの?お願いしてないけど」
「いや、森本くんが不安そうだったから…」
「ふたりで言うとふざけてる感じするからやめてよ!!」
目も当てられない口論が再び始まった。楽屋にいた先輩方も呆れかえっていた。なんとか『みんな責任はイーブン』という結論でこの会話は終わり、ようやく解放されたと安心していたら
「よし、じゃあ次の公演はふたりとも舞台に出てきて『小宮ー!』って言おう!」
懲りてなかったのかよ。どうやら三四郎さんのネタ中にある、お客さんとコールアンドレスポンスする際に言う「小宮ー!」のタイミングで入ってきてほしいらしい。もう僕も3助さんもやけになって出ることにした。
「小宮ー!」
あっという間に次の公演が始まり、三四郎さんの出番中、僕らは舞台袖に待機した。
あきらかに自分たちの出番より緊張していた。そうしてやってきた小宮ポイント。僕たちは意を決して舞台上へと飛び出した。
「小宮ー!!!」
「ハハ…」
会場全体が『から笑いに包まれる』という地獄絵図ができあがった。しかし勝負はここから。小宮さんがきっと僕らをおいしく料理して爆笑をかっさらってくれるはず。
「おいおい、芸人が出てきちゃ、ダメだよー。ハハ…」
この人、心折れてる…!『より深い地獄』に連れてかれたまま、僕と3助さんは舞台袖へとハケた。あんなに楽しかった仙台で僕らだけ絶望に満ちた表情をしていた。
あの瞬間、僕らが欲しかったのは笑いよりも
みんなからの「がんばれー」だ。