相方口づけバナシ
コント『ケンカ』
僕たちのネタに『ケンカ』というコントがある。YouTubeの公式チャンネルにも上がっている動画なので見たことない方はぜひ一度見てほしい。
このネタを書いたとき、僕は「どう見せればキスしてるっぽく見えるか」というのを第一に考えた。その結果、『櫻田が後ろを向く』という結論にたどり着いた。これなら実際にキスをしていなくてもある程度顔を近づければそれっぽく見える。
盲点
ネタ合わせの日、僕は台本を相方たちに渡した。まずは口頭で動きを説明し、その後ふたりに実演してもらった。予想通り、これならふたりがキスしているように見える。すると櫻田が
「たしかに正面のお客さんはキスしてるように見えるかもしれない。でも前列の端っこに座ってるお客さんはどうだ?」
その言葉にハッとさせられ、僕が座る位置を変えてあらためて見てみると、そこには数センチの空間を開け、目を閉じながらキスのフリをしているふたりの姿が露わになった。完全なる盲点だった。あと、目閉じてたんかい。
解決策
しかし、こればっかりはしょうがない。物理的にすべての角度を網羅することは不可能なので、このままの状態で練習を進めようとしていたら櫻田が
「いや…キスしよう」
ちょっとロマンティックに言うな。普段は僕の書くネタを文句ひとつ言わずそのままやってくれる櫻田が初めてハッキリと意見を言った。それが「キスしよう」なのかよ。そして彼は続けてこう言った。
「端に座るお客さんが実際にキスしてないと知ったら萎えるだろ?それだけは避けたい。だからキスするべきだと思う」
それを聞いて「キスしてた方が萎えるのでは?」と思ったが、彼の熱意に対してそんなことを言うのは野暮だった。しかし、まだ『キスされる側』である菅原の意見を聞いていない。
「菅原、おまえはどう思う?」
「おれは櫻田と同意見だ」
なんでだよ。なんで乗り気なんだよ。ちょっとは嫌がるとかないのかよ。しかし、こうしてふたりが実際にキスをすることで『お客さん萎え問題』が解決された。その後、本番を想定してキスありでネタをやったのだが、終わったあと菅原が
「ヒゲが当たるから、初めての感覚なんだよね」
知らねーよ。勝手にキスの感想を報告してくんな。その時間、間違いなく僕らは『この世でもっとも気味の悪いトリオ』だった。
お笑いハーベスト大賞
このネタが出来た数ヶ月後に『お笑いハーベスト大賞』という大会に参加した。僕らは準決勝でこの『ケンカ』のネタをやり、そのまま優勝することができた。そのときのお笑いナタリーの記事がこちら。
当時は優勝のよろこびでなにも思わなかったが、今見るとよくこんな『キモ見出し』を載せてくれたなと思う。ちなみに内容も
自分で読んでも腹立ってくるくらいの『キモ口調』になっていた。優勝を取り下げられてもおかしくない仕上がりだ。
そんなこともあって、この『ケンカ』はとても思い出深いネタだ。ネタ作りは僕がやっているが、その厚みを増してくれてるのは相方のふたり。
今後も我々トンツカタンのことをぜひとも、
チュウ目してほしい。