地獄生誕祭に参加したバナシ
「モチベーションがあったら来てくれ」
先日、ヒコロヒーさんから「Aマッソ村上の生誕祭を小規模でやるねんけど、もし祝えるモチベーションがあったら来てくれ」というLINEが来た。村上さんとは僕が『Aマッソのゲラニチョビ』というネット番組に出させていただいてから仲良くさせてもらっている。誕生日会ではなく生誕祭というところにきな臭さを感じながらも、せっかく誘っていただいたので参加しようと思った。しかし、よくよく考えると村上さんとプライベートの付き合いはないのでそれでも大丈夫か聞くと
「プライベートの付き合いはいらない。生誕を祝うモチベーションさえあれば大丈夫です」
なんでかたくなに生誕なんだよ。不安は拭えなかったが、僕は参加を決意した。
生誕祭当日
そして迎えた生誕祭当日。メンバーをまったく知らされていなかったので「誰も知らなかったらどうしよう」という不安に駆られながらお店に到着すると
ヒコロヒーさん
ゆーびーむ☆さん
きしたかの高野さん
乳桃みゆ
がいて、これに村上さんを含めた6名が今回のフルメンバーとのこと。全員ライブなどでご一緒したことがあったため、『誰も知らない』のワンランク上、『みんなほんのり知ってる』だった。村上さん同様、普段プライベートの付き合いがないみなさんだったので、もしかしたら僕以外の人たちはよく遊ぶいつものグループなのかと思って聞いてみたら全然違った。高野さんに関してはライブでちょっと一緒になったことがあるレベルだった。なんで祝うモチベーションあったんだよ。
ちなみになぜこのような人選になったかというと、今回の選考基準が『最近村上さんの中でキテるメンバー』だかららしい。いや誕生日は気の置けない仲間集めろよ。新人を育てるな。
ドレスコード
そしてこの生誕祭は村上さんの漫才衣装のカラーでもある『ブルー』がドレスコードとなっていて、みんな青い服を着てきていた。そんな中ゆーびーむ☆さんが「今日ドレスコードあるの知らなくって~!でも高野がGジャン持ってたから借りたの~!」という低モチベーション発言をしていたのだが、逆に高野さんは『予備の青』を持ってくるほど高いモチベーションで参加しているんだと思って相殺された。
「英語で止めてほしい」
村上さんが仕事の都合で遅れるらしく、ヒコロヒーさんが「誕生日ケーキを持っていくまでの流れをサプライズでやりたい」と言い出した。もちろんそこまでは賛成だったのだが、そのあとの「やっぱサプライズと言ったらケンカやから。いったんわたしとゆーびーむ☆がケンカするわ」から雲行きが怪しくなった。その後ヒコロヒーさんは自信ありげにこう言った
「そのケンカを森本くんに英語で止めてほしい」
負け戦確定である。「そんなことしたら台無しになりますよ!」と反論したら「いや、これは絶対大丈夫。なぜならそのあと高野と乳桃がまた別のケンカを始めるから、それも英語で止めて。そしたらわたしが怒って出て行く。それを森本くんが追いかけてきて、そのままケーキ持って戻ってくるから」
と、サプライズ界の底辺みたいなシナリオを提示してきた。同時進行でケンカするサプライズなんか見たことがない。どうにかして考え直させようとしていたら村上さんが到着してしまった。もう後戻りができなくなってしまった。
「…フフ」
集まったみんなを見て村上さんは「おぉ、ええメンバーやな!」と、喜んでいた。しかしそこからの会話は一切覚えていない。なぜならやつらがいつサプライズを発動するか気が気でなかったからだ。そして1時間ほどがたったそのとき、
「さっきからなんなの!?マジありえないんですけど」
「いや、なんでそんな言われなあかんねん」
死へのカウントダウンが始まった。しかも二人がケンカするテーマを決めていなかったため、世にも珍しい『主語のないケンカ』が始まってしまった。
「ハァ!?ムカつくんですけど」
「なんでそんなこと言うねん」
「…フフ」
「…フフ」
なんと自分たちのあまりのヒドさにサプライズ界のタブー、『ヘラヘラ』をしだした。村上さんも「ん?どした?」と、明らかな違和感を覚えている。これはマズイ。
地獄絵図
このままだと大失敗に終わってしまう。こうなったら一か八か、作戦通り僕が動くしかない。
「Hey cut it out you two! It's Murakami's birthday party!」
僕のインターナショナルスクール仕込みの英語が炸裂した。するとケンカしてた二人が
「はぁ?なんなの?」
「いまそういうんじゃないから」
話が違う。まさかの裏切りである。「お、いま英語で村上って言ってたよな?」と、サプライズされる側の村上さんにフォローされる始末。こうなったら頼みの綱は高野さんと乳桃ペアだ。この二人がなんとか態勢を整えてくれればまだ勝機はあるはず。そう願いながら二人の方を見ると
「まぁまぁ…」
「フフフ…」
きっと生き物としての防衛反応が働いたのか、『関わらない』という行動に出ていた。二人ともたまたま通りがかった野次馬くらいのテンションだった。こうして完全なる地獄絵図ができあがった。地獄の中でもけっこう奥地である。
「おう!」
するとヒコロヒーさんが「もうええ、ちょっと外でるわ!」と席を立った。さっきまでヘラヘラしていたのでただの情緒不安定である。仕方なく僕も「ちょっ、どこ行くんですか!」と精一杯のリアリティある演技で追いかけたが、ほかのみんなは無言だった。さっきまで英語で喋っていた男がなにをしても説得力はなかった。
その足で厨房に向かうと、ヒコロヒーさんが店員さんからケーキを受け取ろうとしていた。僕の気配に気づいたヒコロヒーさんは、振り向きざまに「おう!」と、なんならちょっと手応えを感じているくらいのトーンで言った。やり遂げた顔をしていた。
プチ地獄
その後ケーキを持って「お誕生日おめでとうー!」と席に戻ると、みんなが一斉に祝福し、村上さんはとても喜んでくれた。全員5分前の記憶がなくなったかのように振る舞った。そこから生誕祭はなごやかに進んだ。途中、『僕しか誕生日プレゼントを買ってきてない』というプチ地獄もあったが、あのサプライズに比べればどうってことなかった。
こうしてなんとか無事に生誕祭が終わった。そして帰り際に主催のヒコロヒーさんが「来年はこのメンバーで、さらに高い店行こう」と、懲りずに来年も開催する宣言をしていた。
またあの地獄を味わうのかと思うと一気に顔が青ざめた。
ドレスコードはクリアできそうだ。